1. 業務効率化実施の背景
最近、「人手不足」という言葉を耳にする機会が本当に増えました。特に、大手企業ではバブル期に大量採用された世代が、定年などで続々と職場を卒業していくフェーズに差し掛かっています。一方で、定年延長などの制度整備も進んではいますが、そもそも人口減少という構造的なトレンドがあり、働き手の絶対数が減っていくことは避けられません。
こうした中で、どうやって「少ない人数で、より多くの価値を出すか」は、多くの企業にとって避けて通れない経営課題となっています。
製造業における生産技術の現場では、ロボット導入やIoTによる自動化がかなり早い段階から進められてきました。しかし、オフィスワークにあたるホワイトカラーの業務では、そろばんから電卓、Excelへと“高速化”は進んできたものの、“自動化”や“付加価値化”の取り組みは、どちらかといえばまだ道半ばではないでしょうか。
私自身も、以前は業務効率化について「やった方が良い」とは思いながらも、なかなか本腰を入れることができていませんでした。でも、気づけばExcel上の同じような作業を月に何十時間も繰り返していたり、確認作業や報告書づくりに日々追われている現実がありました。
そこで今回、業務の見直しを「一部の改善」ではなく、ビジネスプロセスエンジニアリングとして捉え直し、組織としてしっかり向き合うべきだという考えのもと、取り組みを開始しました。
2. 取り組んだ内容
今回の業務効率化プロジェクトでは、該当部門の管理職・担当者に加えて、プロセスエンジニアリングの外部コンサルタントとRPA導入の専任担当も含めたチームを編成し、プロジェクト形式で進めました。
手順としては、以下のような流れでした:
- まず、効率化したい業務フローを特定するために、業務担当者へのヒアリングを実施
- 業務の現状把握に加えて、各作業における判断基準やルールを言語化
- 自動化できそうな箇所を洗い出し、マクロやRPAツールを用いて実装
- 最終的に作成したプロセスを文書化し、新任担当者にもわかるよう引き継ぎフローを整備
特に意識したのは、「作って終わり」ではなく、仕組みとして定着させることでした。ツールを使える人が一部に限られていると、結局また属人化してしまうため、丁寧に手順を共有し、再現性のある運用を目指しました。
3. 業務効率化をやってみてわかったこと
3-1. すぐに受け入れられるとは限らない
正直なところ、最初から全てが順調にいったわけではありません。むしろ、取り組みを始めてすぐに感じたのは「ツールや仕組みがあっても、すぐには受け入れられない」という現実でした。
まず、ある程度スキルを持っている方に対しては、「こうしたら効率的だと思います」とお伝えしても、「いや、私はこのやり方のほうが早いから」と、ご自身のやり方で再構築されてしまう場面がありました。もちろんそれも一つの工夫であり、否定すべきことではないのですが、「標準化」という観点から見ると少し難しさを感じました。
一方で、スキルがあまり高くない方にとっては、「そもそもなぜこれを自動化するのか」が十分に腹落ちしていないケースが多く、不安感や戸惑いが先に立ってしまう印象がありました。こうした場合、ツールは動かせても、使い続けるための“目的意識”や“自信”が追いつかず、なかなか定着に至らないという課題が見えてきました。
3-2. 案件が出てこないという壁
もう一つ、予想以上に難しかったのが、「そもそも効率化できそうな業務が、現場からなかなか出てこない」ことでした。
これは、「自分の仕事の全体像が見えていない」ことが一因だと感じています。作業を個別には認識していても、「この作業が全体の中でどういう意味を持っているのか」「どこを変えると、どこに波及効果があるのか」がわかっていないため、改革ポイントを見つけにくいのです。
また、「自分でやったほうが早いし、困ってない」という声も多く聞かれました。これは私自身もよくわかる感覚で、忙しい中でわざわざ改善に取り組む余裕がないという状況も背景にあるのだと思います。
4. 浮き彫りになった問題点
このように、効率化の現場を体験していく中で、いくつかの構造的な課題が明確になってきました。

4-1. 社内業務と効率化スキルの“両利き人材”がいない
まず感じたのは、「業務の実態をよく知っていて、かつ自動化ツールも扱える人」が本当に少ないということです。
- 各業務の説明が感覚的で、ロジカルに伝えるのが難しい
- 判断基準が“ケースバイケース”で言語化されておらず、仕組み化しづらい
- フロー全体の構造を把握できておらず、変更時の影響範囲が読めない
- そもそも「どの部分をどう自動化するか」という発想が出てこない
- RPAやマクロなどのスキルが社内に蓄積されていない
このように、現場とデジタルをつなぐ人材の不在が、思った以上に大きなネックになっていました。
4-2. 外部コンサルタント依存の限界
効率化を進めるために外部の力を借りることもありますが、そこにも限界があります。特に、社内の業務特性や人間関係、暗黙のルールなどは、一朝一夕では理解できません。
その結果、実際に効果が出るまでに時間がかかり、コンサルタントへの報酬は発生し続けるという構造になってしまい、「費用対効果はどうか」という懸念が生まれがちです。
4-3. “未来の業務像”を描く力が不足している
最後にもう一つ感じたのは、「変化後の業務をどう設計するか」を描ける人材が少ないことです。つまり、「今の業務を見直す」ことはできても、「理想的な状態にどう持っていくか」という視点で考える習慣が、まだ十分に根づいていないという印象を受けました。
5. 組織能力向上を目的とする場合の解決策
こうした課題を踏まえたとき、「どうすれば組織として“進化”していけるのか」は、非常に大きなテーマになります。その中で私たちが検討したのは、次の2つの方向性です。
5-1. トップダウン方式
優秀なコンサルタントとエンジニアチームをアサインし、社内業務を上流から俯瞰して再設計していくスタイルです。専門性の高さゆえ、プロジェクトとしての完成度やスピード感は期待できます。
ただ、その分コストも高く、社内での“納得感”や“腹落ち感”が得られにくいケースもあり、定着や継続には不安も残ります。
5-2. ボトムアップ方式
もうひとつが、現場から小さく始めていくスタイルです。業務をさらにブレイクダウンして、作業・コマンド単位からRPAやAIを活用していきます。
一見遠回りにも見えるかもしれませんが、少しずつ自分たちの業務が楽になったり、仕組みとして動き始めたりすると、「自分たちでできるかも」という自信が芽生えてくるのです。
6. ボトムアップアプローチの具体的な進め方
私たちはこのボトムアップ方式を選択し、次のようなステップで進めていきました。
ステップ1:まずは自分が理解する
最初に着手したのは、自分の業務の中で「どこを自動化できるか」を探すことでした。単純なExcelの繰り返し作業など、小さなところからマクロやRPAを試してみることで、全体像が見えてくるようになりました。
ステップ2:仲間と一緒に学ぶ
次に、社内で勉強会を開催し、仲間と一緒にスキルを高め合う機会を作りました。ただ操作を学ぶだけでなく、「なぜこの方法なのか」「他に選択肢はあるか?」といった問いを投げかけながら、理解を深めることを意識しました。
ステップ3:フロー全体を再構築する
勉強会を通じて「個別の作業」から「業務フロー全体」へと視野が広がり、自動化ツールの組み合わせによる全体最適化を考えられるようになりました。
ここで重要だったのは、“他人事にならない雰囲気”を作ること。似た業務をしている者同士でペアを組み、教え合うスタイルを取り入れることで、より実践的な知識が蓄積されていきました。
ステップ4:データをもとに付加価値を生み出す
効率化によって空いた時間を使って、データの組み合わせから新しい発見や提案につなげる取り組みも始まりました。たとえば、売上と天候、キャンペーン内容との相関を分析して、次のアクションのアイデアを出すなど、小さな“気づき”を業務改善に還元するような流れが生まれました。
7. 効率化の先にある「進化したオペレーション」
このような取り組みを進める中で、単に「作業を早くする」というレベルにとどまらず、業務そのものの在り方を変えていく可能性を強く感じるようになりました。
7-1. RPAの効果
RPAは、単純作業を高速で処理するだけでなく、業務の「モジュール化」にも有効です。作業を部品として設計することで、再利用性が高まり、将来的な組織変更にも柔軟に対応できる構造を作ることができます。
7-2. AIの可能性
AIは、“考える力”を助けてくれる存在です。たとえば以下のような活用を試みました。
- 大量のデータを分析し、要因や傾向を抽出
- ペルソナを用いた定性的な顧客理解
- 複数シナリオを提示し、意思決定を支援
AIが提示する情報や仮説を、人が判断し、アクションにつなげていくという形が、今後ますます重要になると感じています。
7-3. オペレーションから“ミッション”へ
効率化という手段の先にあるのは、「自分たちがなぜこの業務をしているのか」「どんな価値を届けたいのか」といった、より本質的な問いへの接続です。
日々の業務を“作業”としてだけでなく、“目的を実現するプロセス”として捉え直すことで、仕事そのものが少しずつ変わっていく。それが私たちが感じた「オペレーションの進化」でした。
8. まとめ:生産性の向上とは何か
最後に、今回の取り組みを通じて改めて実感した「生産性向上」の意味について、私なりにまとめてみたいと思います。
生産性向上 = 効率化 × 付加価値の創出
- 効率化:今と同じ成果を、より少ない手間と時間で実現すること(RPA、マクロなど)
- 付加価値の創出:空いた時間で新たな提案や改善に挑戦し、業務の意味や結果をより高めていくこと(AI、データ分析など)

今、多くの企業が取り組んでいる“業務効率化”は、どうしても前者(効率化)に偏りがちです。でも、本当に大切なのは、その先にどんな時間の使い方ができるか。どんな価値を生み出せるか。そこにこそ、企業としての持続的な強さが宿るのではないかと、私は感じています。
コメント