近年、韓国の化粧品業界は国際的に急成長を遂げ、特にアジア市場において圧倒的な存在感を示しています。韓国コスメの台頭は、ブランディング、商品開発、流通の効率化、デジタルマーケティングなど、多方面から成り立っています。この成功の背後には、どのような要因があるのでしょうか?また、日本市場で同様の戦略を展開する際にどのような課題が立ちはだかるのでしょうか?この記事では、韓国コスメの成功要因を分析し、日本の化粧品市場が直面している問題を探り、今後の新しいビジネスチャンスを考察します。
韓国の化粧品店を見て感じたのは、韓国コスメが非常に活発であるということです。商品ベースで言えば、OEMやODMといった受託製造業者が非常に発達しており、その結果として流通の効率化も進んでいます。中間流通の仕組みが整っており、最終的な商品が高価格になりにくい構造ができています。
このため、利益を確保しやすく、競争力の高い商品が生まれているという点は非常に分かりやすいです。
韓国の化粧品産業において、このような製造と流通の強みがメインであることは疑いの余地がありませんが、それだけではなく、ブランディングの巧妙さや、顧客とのコミュニケーション、マーケティング手法の卓越さも大きく貢献していると感じました。特に、化粧品ブランドの旗艦店やブランドショップと、ECサイト、小売店との連携が非常に進んでいる点に注目しました。
今はコスパのよい低価格帯~中価格帯の商品が中心ですが、ライフスタイルを提案するより高価格帯のブランドが勢いを増してシェアを拡大するのは遠くないと感じました。
ブランドショップの役割と影響力
韓国のブランドショップや旗艦店では、贅沢なスペースを設け、ブランドの世界観を表現するための様々な部屋やクリエイティブな空間が展開されています。これにより、視覚的にもブランドイメージを高めることができ、顧客に強く訴求しています。ここで培ったブランド力が基盤となり、小売店においても共通のビジュアルアイコンやシンボル商品が展開されることで、差別化が図られています。この一貫したビジュアル展開によって、常にブランドの印象を高めながら、競争力の高い市場で強固な立場を築いていることが分かります。
日本市場における課題と挑戦
では、なぜ日本ではこのような流通やブランディングが難しいのか、という問いが浮かびます。日本のブランドは韓国のようにできないのか、これが大きな課題として浮上してくるでしょう。日本のメーカーやブランドにも優れた要素はありますが、ブランディングの構成要素として流通のあり方、売上や収益の構造がマーケティングコストとして捉えられている点に違いがあります。流通段階でどのように利益を得るのかという新しい視点が、今後の日本市場で必要になるのではないかと思います。
日本の流通構造と今後の方向性
日本における化粧品流通は、百貨店やドラッグストアがメインとなっており、化粧品専門店は少なく、特に路面店での小規模な展開は件数が減少傾向にあります。今後はプレステージブランドを扱う百貨店や、アットコスメやドラッグストアのように幅広い品揃えを持つ店舗が主流になると予測されます。
しかし、このような小売店が今後さらに差別化を図るためには、どういった店づくりが求められるのでしょうか?
メーカー側から見ると、ブランドの特徴を活かし、店づくりを通じて世界観を打ち出すことは比較的容易です。しかし、ブランドのSKU数だけで店舗単位のビジネスを成功させるのは難しくなっています。現在は、オウンドECビジネスを組み合わせない限り、事業として成り立たない状況です。
新しいマネジメントとKPIの重要性
通常の経営マネジメント・損益管理の考え方では、単店舗ごとの損益に基づいた判断で撤退を決めることが多くなっていますが、今後はトータルでのマネジメントが重要です。顧客のニーズとビジネス規模、リアル店舗の意義を再考し、それに沿ったKPI(主要業績評価指標)の設定が必要です。具体的な数値目標の測定や達成度の評価を通じて、新しいマネジメント手法が求められるでしょう。
品揃えによる差別化の限界と新しい挑戦
現在、小売店における品揃えの差別化は難しくなっています。ECサイトが無限に品揃えを拡大できる一方で、リアル店舗が同じような利便性を提供することは難しいです。特に日本のドラッグストアでは、ECとの利便性の競合が問題となっています。リアル店舗のオペレーションや損益構造が整っているため、ECとの併用が企業文化的にも効率的にも難しいと感じています。
店舗の付加価値向上の方向性
店舗が付加価値を高めるためには、何をすべきかが問われています。既存の品揃えの魅力が発揮しにくい場合、販売方法や購入体験の面でどのような特徴を打ち出すかが重要です。特に、ドラッグストアの特徴を念頭に置きながら、差別化を図ることが求められます。
日本のドラッグストアの特徴は、圧倒的な品揃え、低価格、立地の利便性にあります。特に、品揃えについては、ワンアイテムを基本とし、できる限り多くの商品を展開することが重視されています。棚割りにおいては、単品単位での売上、利益、回転率などを基準にした入れ替えが行われ、各メーカーも新製品を積極的に投入しています。こうした仕組みが、日本のドラッグストアの強みです。
差別化のための新しい工夫
しかし、この強みを逆に捉え、差別化を図るためには、新しい工夫が必要です。例えば、品揃えの豊富さに対抗するために、リラックスした購買体験や、セルフサービスとは対極にある、納得感のある接客を提供することが考えられます。また、従業員が店舗の最大の差別化ポイントになる可能性もあります。チェーンオペレーションの効率化に対抗して、従業員一人一人の個性を活かす方法も一つの手段です。
また、もう一つの手段として韓国のようにブランドショップを作ることも考えられます。
デジタル活用と新しいマネジメント
リアル店舗でこうした取り組みを実現するためには、デジタルとの連携が不可欠です。しかし、現状では、店舗のオペレーションに手一杯で、デジタルを取り入れる余裕がないのが実情です。そのため、新しい組織や役割分担が必要になるでしょう。
ある店舗では、SNS担当者がリアル店舗のオペレーションとは独立した形で配置され、SNSを通じて店舗の魅力を発信する仕組みが成功しました。これを参考に、今後はボランタリーチェーンや外部のパートナーと連携し、デジタルとリアル店舗を融合させた新しい形を模索することが重要です。
ブランドショップづくり
ショップがコンセプトを持って複数ブランドを取り扱う場合、ショップの独自性が重要です。取り扱うブランドはショップの世界観に沿って厳選され、統一された顧客体験が提供されます。しかし、ブランドごとの個性が弱まる可能性もあり、バランスをとる工夫が必要です。商品やサービスの一貫性を保ちながら多様なブランドの強みを引き出すためには、コンセプトの明確化とディスプレイ、サービスなど細部にわたる管理が求められます。
一方で、ブランドが独自のコンセプトに基づいて店舗を持つ場合、ブランドそのものの価値観やビジョンが直に伝わります。統一感が生まれやすく、ブランドファンへの深い訴求が可能です。しかし、特定のブランドに特化するため集客対象が限定され、広い層を取り込むのが難しくなる場合があります。いずれの場合も、顧客に響く体験を提供するため、コンセプトの一貫性と顧客ニーズの理解が重要なポイントです。またSKU数がブランドに制限されるため、ビジネスが非常に難しくなります。
韓国のブランドショップは単なる「販売拠点」ではなく、ブランドの価値観や哲学を消費者へ直接伝える「発信基地」として機能しています。プロフィットセンターではなく、コストセンターとしてブランドエクイティを高めることに注力し、消費者との関係性を構築している点が日本市場と異なる重要なポイントです。経済的な収益よりも、ブランド価値を高めることを主眼に置いた店舗運営は、長期的なブランドロイヤリティ獲得に貢献しています。
また、店舗内のデザインやサービスを通じて、ブランドの世界観を体験できる仕掛けが用意されており、消費者がブランドの価値を肌で感じることができます。この「体験型の場」としての店舗運営は、オンラインでは得られない体験を提供するための差別化戦略としても非常に効果的です。
そう思うと、ビジネスの側面においては、オウンドECとの連携など、トータルでのチャネルポートフォリオの概念に基づくビジネス構造の確立が必要になってきます。
結論:未来の店舗経営への提案
韓国の化粧品業界が示す成功事例から学べる点は多いです。日本においても、流通やブランディング、マーケティングの新しい形を模索することで、未来の店舗経営に生かせる可能性があります。特にデジタルとリアルを組み合わせた新しいビジネスモデルの構築が、今後の成長を支える重要なポイントとなるでしょう。
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