はじめに:企画・スタッフ業務のパラダイムシフト
AI技術の進展により、私たちの働き方が根本的に見直されようとしています。中でも、情報の収集・編集・意思決定支援という業務の中核を担う「企画・スタッフ部門」は、最も大きな影響を受ける分野の一つです。
これまで“調整役”や“文書作成のプロフェッショナル”として組織を支えてきたスタッフ業務。しかし、AIの力によって資料作成・要約・分析といった作業の多くが数分で完結できるようになる時代、**人にしか担えない価値は何か?**という問いに向き合うことが避けられなくなっています。
第1章:AIが代替する業務と残る業務
AIが得意とする業務の特徴
- 情報収集の高速化と網羅性(Web検索、社内DB探索)
- 文書の要約・構造化(議事録、報告書、ナレッジ整理)
- 定型フォーマットでの資料生成(会議資料、月次報告案)
- 定量データの可視化とグラフ生成(BIツール連携)
これらはすでにChatGPTやNotion AI、Copilotなどを通じて一般化しつつあります。結果として、従来のスタッフ業務の50%以上はAIで補助可能な段階に入っています。
人にしかできない業務
- 問いを立てる(本質的な課題の構造化)
- 相手の立場や文脈を汲んだ調整・合意形成
- 価値観・優先順位の異なる意見の収束
- 仮説を持った上での論点整理と意思決定支援
これらは、AIが情報として提示した内容を“意味づけし、方向づける”編集力が求められ、判断責任や背景知も必要とされるため、現時点でのAIでは代替が困難です。
第2章:企画・スタッフに求められる新スキルセット
AIとの共創スキル
- プロンプト設計力(問いを的確に与える)
- 出力の批判的検証力(適用範囲の見極め)
- 再プロンプト設計力(やりとりで改善していく)
意思決定支援スキル
- 多数案をまとめる構造化力(プロコン比較、論点の重みづけ)
- 抽象化と具体化の往復(経営視点と現場視点の橋渡し)
合意形成・編集スキル
- 相手の言語で話し、調整する対話力
- 複数ステークホルダーをまとめる編集力
- 経営層へのプレゼン設計力
第3章:仕事の再構築──Must業務とNice業務の切り分け
AI導入にあたって最も重要なのが、業務の再設計=業務棚卸しと分類です。これは以下の2軸で整理できます:
| 必要度 | 創造性 | 業務の性質 | 対応策 |
|---|---|---|---|
| 高 | 高 | Must業務(戦略立案、意思決定支援) | 人が主導+AI支援 |
| 高 | 低 | 定型Must業務(報告書、資料調整) | AI自動化+人が検証 |
| 低 | 高 | Nice業務(施策ブレスト、改善案探索) | AI実験+人が取捨選択 |
| 低 | 低 | 定型Nice業務(集計、転記) | 完全自動化・削減対象 |
このマトリクスにより、何をAIに任せ、何を人が判断すべきかが明確になります。
第4章:業務改革を支える組織体制とマインドセット
並行推進型の再設計アプローチ
AI導入・業務改革は、「棚卸してから変える」のではなく、「使いながら変える」時代です。実務推進と改善を同時に行う以下の流れが効果的です:
- 一部業務を対象にAI適用テスト
- 出力品質と使い勝手を現場で検証
- 実務知見を踏まえてプロンプトや手順を修正
- 成果をテンプレート化し水平展開
AI導入における実務の懸念と対策
- 「任せてはいけない業務までAIに丸投げ」:判断や責任のある業務は人間が最終確認を
- 「AIが正しいと思い込む風潮」:出力には必ず誤差がある前提でチェック体制を組む
- 「使える人/使えない人の格差」:定期的なAI研修とユースケース共有で底上げ
第5章:AI時代のキャリア構築と育成の方向性
AIに作業を任せ、人は構想・判断・説明を担う時代には、キャリアの積み方も変わります。
擬似経験の設計が鍵
- 実際の意思決定ケースをAIに再現させ、評価・分析する
- 過去事例を用いた「仮想会議」でロールプレイを行う
- 上司の説明や判断プロセスを言語化し、ナレッジとして活用
学び方の変化
- OJT中心→“OJT+シナリオトレーニング+AIとの対話”へ
- 経験年数中心→“アウトプットの編集力”と“説明責任力”へ
若手に対しては、まずAIを使いこなしながら「どのアウトプットがいいか」を上司と議論できる設計が必要です。
結論:AIを使う企画職は“編集者”であり“合意形成者”
AIの力で情報の整理や生成は高速化されます。だからこそ企画スタッフには、
- 論点を立てる力
- 出力された案を編集・選択する力
- 関係者の納得を得る力
といった”企画の本質的価値”が強く求められます。
AIは助手。人は設計者でありファシリテーターである。
この意識のもと、「Must業務に集中し、Nice業務はAIとともに進化させる」企画スタイルこそが、これからのスタンダードになるでしょう。

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