企業の財務面を統括するCFO(最高財務責任者)は、企業戦略の中で重要な役割を果たします。特に、CEOと密接に連携し、財務戦略を策定することは、企業の長期的な成長にとって欠かせません。しかし、CFOが過度に事業運営に関与することが必ずしも良い結果を生むわけではないという点にも注意が必要です。本稿では、CFOの重要性を説きつつ、CFOにも限界があり、過度な関与が企業運営に悪影響を与える可能性について考察します。最終的には、事業戦略は専門家に任せるべきだという立場を取ります。
CFOの役割とその重要性
戦略的な財務計画とCEOとの連携
CFOは、CEOと共に企業の戦略的ゴールに沿った財務計画を策定する重要な役割を担います。たとえば、新規市場への参入を検討している場合、CFOは大規模な設備投資や資金調達を通じて、短期的な損益の悪化を乗り越える方法を模索します。この際、CFOは市場分析やリスク評価を行い、CEOに対して「長期的な収益性が高い」という確信を与えることが求められます。このように、財務戦略と経営戦略を一体化させることが、企業の成長にとって不可欠なプロセスであることがわかります。
財務戦略の一体化によるリスク回避
経営戦略と財務戦略が別々に運営される場合、企業は多くのリスクに直面します。例えば、資金調達のミスマッチや、短期的な収益性に偏った投資判断などが挙げられます。これらは企業の成長を阻害し、長期的な発展にとって障害となることがあります。したがって、財務戦略は事業戦略と密接に結びつける必要があります。この一体化が欠けると、企業は資金調達の誤りや投資判断のミスにより、長期的な成長を実現できなくなる可能性が高くなります。
CFOの進化と限界
経営管理からリスク管理へ
かつて、CFOは「経営管理部」という名称で呼ばれることが多かった時代があります。この頃は、CFOの役割は主に財務データの集計や確認、または経営の「チェック役」に過ぎないと考えられていました。しかし、時代が進むにつれて、CFOは単なる結果管理者から、将来性を見据えたリスク管理の専門家へと進化してきました。現在、CFOの役割は、企業の未来を見越した投資判断や財務リスクの管理に変わりつつあります。
この進化に伴い、CFOは事後的な結果管理から、事前にリスクを予測し、企業の未来に向けた戦略的な判断を下すことが求められています。しかし、ここで重要なのは、CFOが財務的な視点からリスクを評価することができる一方で、ビジネスそのものの専門家ではないという点です。
財務的リスク評価とビジネスの専門性
財務のプロとしてのCFOは、企業の成長を見越してリスクを評価する役割を担っています。しかし、財務的な視点だけでビジネス全体を判断することは、限界があります。例えば、企業が新規事業に投資する際、CFOはその投資がどの程度収益を上げるかを金額で評価します。この評価は非常に重要ですが、事業そのものの成功を見極めるには、財務面だけでなく、事業の専門家の判断が不可欠です。
過度な財務的視点からの判断は、場合によっては企業戦略に悪影響を及ぼすこともあります。例えば、PL(損益計算書)を基にした短期的なコスト削減が、企業のブランドや長期的な収益性に悪影響を与えることも考えられます。このようなケースは非常にわかりやすい為、当然事前に「経営判断」が入っていますが、表面上、単純でわかりやすいケースでも、実態は複雑で構造的な因果関係をもっているケースもあり、事業活動の専門性を持たない領域に踏み込んで判断するのはリスクがあり不適切な影響を与えかねません。
事業戦略・実行分野は専門家に任せるべき理由
COOとの連携
CFOの財務的な判断は、事業戦略において非常に重要ですが、線引きが重要です。
CEOの経営判断を助け、事業戦略の決定ののちは実行を専門的な知識と経験を有する他のプロフェッショナル、レベル的にはCOOに任せ、マーケティングや商品開発、営業など、各分野の専門家が財務視点での判断基準を満たしているのか実行視点で確認と実行を行き来して練っていくことが求められます。
CFOが過度に事業戦略に介入し、財務的な指標のみを基準に意思決定を下した場合、結果的に企業の成長を妨げることになりかねませんが、COOにも財務的な視点や考え方がないと折角の経営判断が意味のないものになってしまいます。財務的な視点を交えて決定された経営判断は事業実行において何を実現すれば達成するのか、財務→事業・実行・実務連携の変換ができないくてはいけません。
具体的な例
広告費の削減とブランド力の低下とバーターにして利益率を改善するなどの話はわかりやすい例ですが、このケースは理解して実施している場合は「判断」だと思います。
財務サイドが理解していないのは、もっと構造的または関係性の深いもの同士を見ていくケースです。例えば商品の利益率を高めるための原価低減ですが、利益率だけに着目すると、原価率の高い商品をカットすることで改善したように見えますが、一概に成功とは言えません。
- 代替する売上があるのか、なければ利益「額」を落としているだけになる
- 原価率以外のコスト要件はあるのか。例えばプロダクトライフサイクルの視点で見たときに、初期段階のマーケティングコストのかかっているものと、安定期のかかっていないものでは実際の利益率は変わってきます
- 在庫コントロールも発注ロットと原価のバランスを見たうえで、在庫率を適正に維持したサプライチェーンのバランス
- プロダクトライフサイクルから離れて、顧客のLTVに着目した場合はアップセル・クロスセルなどの起点になっている場合は、より利益額・利益率の高い商品へとつながる場合は、単品の利益率だけでなく、顧客単位のトータル利益で判断する
などもっと構造的かつ複眼的に見ることで、どうすれば「真の利益改善」につながるのかは大きく変わってきます
このように利益率向上一つとっても、単純にコスト削減を行うことが必ずしも最良の結果を生むとは限りません。ビジネスは必ず構造的になっているだけに、対策は財務専門家ではなく、ビジネスのプロフェッショナルの判断を仰ぐことが重要です。
財務戦略と事業戦略のバランス
財務戦略と事業戦略は、両者が明確に分離されていない状態で運営されるべきです。
CFOは、企業が目指すべき財務体質を明確にし、事業戦略と整合性を取る役割を果たしますが、PDCAのうち、D(実行)を担っていないことから、実行プランはCOOに任せ、次は実行支援の立場から、結果モニタリングと並行して、立案した財務的な目標は実行面から整合性のない計画となっていなかったか自ら検証する活動を行い、プランの精度を上げていく事業PDCAと自律的なPDCAを行うことが重要です。
COOも、実行がどのように財務指標に反映されていくのか、その範囲と影響度合いをつかみ、CEO・CFOにフィードバックしていく姿勢が重要になります。財務指標の改善は活動結果と表裏の関係である以上、実行サイドから立案したプランが財務にどのように影響するのか提案していくべきです。
CFOの役割の変化と今後の展望
CFOのリスク管理と成長戦略の調整
CFOの役割は、企業の成長局面においても大きく変化します。危機的な状況においては、コスト削減が大事になるため、必要なコストとそれ以外のコストを仕分けするというリスク管理を主導し、成長局面では、プロフィットセンターの投資リスクをROIの観点から優先順位をつけるという役割を果たします。いずれのケースでも実務面での実行判断は専門の部門に移譲することが重要です。CFOは柔軟にその役割を変えながら、関与範囲も柔軟に変えることで、企業全体の成長と安定を支えることができます。
これらのバランスを取ることが、CFOの重要な役割となります。
結論:CFOの果たすべき役割と位置づけ
CFOは企業の成長と安定を支えるために欠かせない役割を担っています。しかし、その役割にも限界があり、過度に事業運営に介入することは、企業にとって逆効果になる可能性があります。
事業戦略や運営に関する判断は、財務的視点だけでなく、各分野の専門家に任せることが重要です。CFOはあくまで財務戦略を支える役割に徹し、事業運営の専門家と連携することが、企業の成長を最大化するために重要であり、CEO・COOとの連携のポイントとなると思います。
【参考】
企業の成長ステージごとのCFOの役割
スタートアップ期: 資金調達が最優先事項
成長期: 資本配分とリスク管理
成熟期: 新規事業の立案とM&A
再編期: 事業再編とコスト削減
【具体的なリスク管理手法】
ストレステスト、シナリオ分析、リスク分散
コメント